野生協

 前世紀にはアウトドアを気取って、キャンプや四駆でのオフロード走行なんかも趣味で楽しみましたが、今世紀はご無沙汰。羊の皮をかぶった山羊こと、スズキのエスクードに十年くらい前に乗ってまして、あっちこっちで無茶したものです。長瀞の辺りから信州佐久まで抜ける御荷鉾林道を走ったときは、まさに峠を抜けるという感覚を味わいました。雄大ですね、長野の山奥は。南アルプス林道を抜けて、静岡県の山伏峠という標高二千bの峠で車がエンコした時は流石に困りましたね。まず、車が通りそうにない道でしたから。幸い、通りがかった三菱シャリオに拾ってもらって、麓の民宿で一泊。翌日に自動車屋の車に乗せられ、路肩が崩れているような山道を牽引されて、降りてくるのはスリルがありすぎでした。もう二度とごめんです。

 三千円のテントと寝袋と借りたポケットコンロ一つを持って恐山まで五泊六日の旅に出かけたのは、松井が甲子園で全打席敬遠された夏でした。行きは一気に高速で青森まで行って、陸奥に野宿。恐山から仏ヶ浦の崖下に下りて、きれいな海の底にウニがたくさんいて感激しました。帰りは遠野や花巻を回っての充実した旅でした。宮沢賢治ゆかりの学校の跡地が公園になっていて、そこでひげを剃った思い出があります。この頃は見知らぬ林道や山道を走るだけでもたいそう楽しかったのです。

 奥只見湖の銀山平キャンプ場では、止せばいいのに崖沿いの道路端にテントを張りました。雲間にのぞいた夜の星は恐ろしいくらいに鮮やかでした。近くに清水が流れ落ちていたので、これ幸いとビールや酒を冷やして、次の日の午前中は山奥までハイキング。寝雪の上を歩きに行きました。午後はトンネルの向こうの温泉へ。帰ってくる頃は集中豪雨。清水は瀧となっていて、冷やしていた酒は全部押し流されて、テントは半分潰れているという緊急事態。豪雨の中、タープを引っ張って、テントを張り直しました。あの晩はどうやって飯を食べたのか覚えていません。次の日の昼には自転車に乗って十分くらい走って道路脇にわき出ている温泉に入りに行ったっけ。あの辺りはもうすっかり整備されたと思います。

 友人たちとの仲間の名称は「野外生活協同組合」。略称「野生協」である。名前はワイルドですが、実態は大層マイルドです。そのほとんどはスーパーで買い出しして、野宿しながら宴会をするというのが実態で、別名「セブンイレブンキャンパー」(コンビニの近くでしか露営しないから)とか「軟パー」(軟派キャンパーではなく軟弱キャンパー)です。怪しげな料理を作りながら、酒を飲むのがひどく楽しいだけという集まり。翌日はどこかの温泉や鉱泉を探すというお気楽なキャンプです。仲間とクロカンスキーで気が付いたら、沼の氷の上を歩いていて、恐る恐る引き返したり、八溝山の峠道を一気にマウンテンバイクで駆け下りというスポーツ主眼の時もありました。けっこう印象に残っている冒険は洞窟探検です。

 福島県滝根町の入水鍾乳洞は小さな観光洞窟で、一番深いところはガイドの先導なしでは奥までは行ってはいけないという、初心者にはハードな世界。夏場だったのに水は泣きたくなるほど冷たく、息まで白く見える。しかも完全な暗闇の世界でした。水の中を四つん這いで這わなければならない難所もあって、濡れること必至。私は最初から海パン姿だったので、濡れることは厭わなかったのですが、まあ半ズボンであれば注意すれば濡れずには済む行程です。しかし、何とも言えない貴重な体験が出来ました。真の闇は恐ろしいという感想です。近くに国民宿舎があって、帰りには一風呂浴びられるし、なかなかよい。なんかずいぶん冒険したような気分になれました。テレビの冒険レポート番組が好きな人は一度トライしてみましょう。後悔はしませんよ。

  

 2004年の夏に群馬県の丸山高原オートキャンプ場にて初のファミリーキャンプを経験しました。まずまずの天候に恵まれ、広いサイトを寡占状態でした。水場もトイレも近くにあり、ロッジには温泉も付属。オートキャンプ場に宿泊するのは考えてみれば初めてでした。至れり、尽くせり。初日に金精峠を越えて丸沼へ、ロゴスのテントを試行錯誤しながら広げて、新しいランタンに火を入れようとしたら、なんとマントルを持ってくるのを忘れて、妻に笑われました。ところが、彼女も鍋を持ってくるのを忘れてしまい、次の日は買い出しと言うことに。朝のうちにロープウェイで丸沼山頂を散策し、天然のヒカリゴケを観察。蛍光色に仄かに光るものでした。沼田で物資の調達して、吹き割の滝の見物の後は丸沼高原に戻り、サマーリュージュやパターゴルフで遊んでカレー作り。昨夜のバーベキューに使った炭焼きコンロに近くの枯れ枝で火をおこし、飯盒炊爨。夜に雨が降りましたが、新しいテントは快適でした。子供は夜にたき火をしたのが楽しかったようです。

Copyright(C) 1980-2023 SUPER RANDOM Com. All rights reserved