ご多分に漏れず私もウルトラマン世代である。懐かしい武田製薬のコマーシャルを白黒の画面で見ていた口だ。初めて書いた漢字が「怪獣」で、ガメラを書こうとしてガナラになっていたという幼年時代を過ごした。記憶にきちんと残っている最初の映画館体験が途中から見た「大怪獣空中戦 ガメラ対ギャオス」だった。横長のスクリーンをギャオスの超音波メスが横切って、ガメラの腕から青い血がほとばしるバトルのまっただ中だった。その時映画館の前で撮った写真は幼い頃の数少ない映画館での記念品でもある。初めて映画館で見た怪獣映画がそれだったこともあって、私自身はゴジラ派よりもガメラ派です。奇想あふれる大映自衛隊の作戦が好きだった。ガメラひっくり返し作戦とか、ギャオス回転お立ち台作戦とか。ちなみに究極の作戦「Zプラン」は若干「84ゴジラ」に流用されてましたがね。メカニックなガメラの活躍にはしびれました。あのブレーキが軋るような甲高い声と、回転して飛んでいるときのシュルシュルという音。ガメラは効果音で魅せますね。その点、ゴジラには無敵の伊福部サウンドがついている。ガメラの劇判は木下忠司だったり菊池俊輔だったりとイメージが一貫していないものの、水戸黄門と鬼平犯科帳ですから、重厚な中に軽快さもあってかなりよいものです。平成ガメラは統一されてはいますが、ちょっと地味かなぁ。
いずれはガメラとゴジラは一戦交えることになるだろうが、その時はしっかりと決着をつけてもらいたい。「キングコング対ゴジラ」みたいな、いきなり引き分けでお茶を濁すのではなくて、とにかくどちらかが勝つ。そしてリベンジと、そういうプロレス的な展開をしてほしいものです。三部作にして一勝一敗で、最終戦には新怪獣登場という展開でいかがでしょうか。東宝と角川でマジに企画を立てて欲しい物です。となると当然、ガメラは善玉、ゴジラは悪玉となるでしょうねぇ。
ウルトラマン世代としては、ウルトラマンの話をしておかないと次には進めません。空想特撮シリーズとなると「ウルトラQ」「ウルトラマン」「ウルトラセブン」「怪奇大作戦」という初期4部作が侵すべからざる聖典としてマニアには崇められているようです。特に「怪奇大作戦」はアダルトな作りで、子供心にハイブロウな作品でしたね。(ちなみに私は「怪奇大作戦」と「決断」の月星シューズを持ってたんですよね、何故か。なんでなのかはわからない。子供心に欲しがったとは思えないような靴です。)まあ、子供だましではなくて、子供や大人に提供する娯楽としてきちんと作られていたことは間違いないと思います。こんなことをいうと、「帰ってきたウルトラマン」や「ウルトラマンA」とかのファンからも苦情が出るでしょうが、世間的にもこういう見方でしょう。何分にも後期ウルトラは怪獣の造形が悪く、ストーリー的にも子供だましに陥りがちだったですから。21世紀のウルトラマン、「ウルトラマンコスモス」ではなんと劇判に冬木透の名前を見つけてびっくり。何も冬木透を担ぎ出さなくても……。
特撮技術は現在、相当発展していますが、特撮映画にとって何より大切なのは志です。所詮、映画というものはインチキなものをどう説得力もって描けるかですから。特撮技術の進歩なんてのは、極論を言えば指人形が操り人形に進化したくらいのものです。「ダイナソー」のCGは素晴らしいかも知れないが、視覚効果だけを言えば、単純で効果的な二重露光の特撮だって立派な衝撃を与えられます。怪獣もの特撮で大切なのは、日常の存在である風物と非日常の存在である怪獣やメカが如何に空気感を伴って融合されているかに尽きるのです。技術は年々歳々進歩していますが、きちんと融合されているかというとどうも怪しいですよね。全編CGの「ダイナソー」はアニメにしか見えません。「侵略者を撃て!」でビルの向こうから巨大化したバルタン星人が顔を出すショットの方が衝撃度から言えば高いと思います。
ハリウッド映画が得意のCGエフェクトですが、特にビデオで見ると粗が見えますね。デジタルでクリアな分、アナログな登場人物の芝居との合成部分のエッヂが見えてしまう。そのようなCGシーンは役者の足を引っ張るだけの代物で、観客を興ざめさせてしまいます。ハリウッドのアクション映画はそれをスピード感とハッタリで強引に誤魔化して、観客を圧倒させています。それも一つのやり方としては納得がいくものですが、大怪獣映画で空気感をじっくりと見せて欲しいものです。
円谷プロの初期4部作は特撮技術が今のレベルとは劣るとはいえ、そんなものは後からいくらでもCGで補完することが可能なご時世なのですから、問題にすることはないのです。技術ではなく演出を評価すべきです。技術ではなくということは現在のハリウッドCG特撮に対するさっきの私の批判も的はずれなのかもしれません。しかし人間ドラマが如何に描かれているかが、結局は作品の評価の基準なのです。センスオブワンダーのセンスの問題です。いくら技術が進歩しても描かれているテーマが古くさければ、新しい発見や感動がそこに生まれるはずはありません。そんな意味で21世紀の今でも円谷プロ初期4部作は鑑賞に堪えると思われます。と言うわけで、初期4部作はどれも甲乙つけがたい魅力的な作品群です。「ウルトラセブン」は特に人気が高いようですが、個人的には私は「ウルトラマン」の描く陽性な未来が好きです。ウルトラシリーズという観点から言えば番外ですが、勇壮なる富田勲のテーマ音楽が高揚感をあおる「マイティジャック」もあります。あの作品は視聴率的に失敗したのですが、一時間枠の特撮ドラマで成功したのは日本テレビの「西遊記」くらいですから、当時の円谷プロの挑戦は評価されていい。今の円谷プロの特撮はずいぶん進化しています。それでも今の円谷作品の幻想がリアリティを持てない気がするのは、作品のせいではなくて、夢を見る力を失っている私のせいなのではないかと思います。
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