「スケバン刑事」(1985)という妙ちくりんなシリーズが巷で受けたのはもう何年前になるか。フジテレビの、「夕焼けニャンニャン」という番組にスケバン刑事が出演する話もあったので、昭和時代の末期頃だったはずである。同系統の番組が四、五年続いたはずなので、結構な人気だったと見える。日本経済がバブルに向かう頃に少女たちは命がけで悪と戦っていたというわけだ。東映が妙に元気があったのだろう。とにかく一世を風靡したものである。アイドルが何故かスケバンで刑事の役をやるという番組で、その荒唐無稽さと特撮マインド溢れる活劇は実に楽しいものだった。主人公の麻宮サキはなぜだか知らないけれどスケバンで刑事で日本征服を企む悪の海槌三姉妹と戦ってしまうのである。武器は重合金ヨーヨーというもので中には特命刑事である証、桜の代紋が隠してある。このヨーヨーを投げつけて敵を倒したり、ヨーヨーに付いた鎖で犯人を縛り上げたりする。そしてこのスケバン刑事を演じたのが齋藤由貴だったのである。当時はバリバリのアイドルだった。別に齋藤由貴のファンというわけでもなかったが、偶々見ていたら、その時代錯誤的なドラマチックな展開にはまってしまった。齋藤由貴が悪を追いつめて、水戸黄門の印籠のように桜の代紋を見せるときの口上は脳みそのネジが外れてしまうくらいの異空間を作り上げる。そのあまりにも一本調子な台詞回し、その後の彼女の大成ぶりからは想像も出来ない。原石というにはあまりにも無骨な芝居が「スケバン刑事」というビックバンを引き起こしたのだろう。アイドルとは演技ではなくて、存在そのものに価値があるということを確認させてくれるいい例である。その後の彼女は相米慎二や大森一樹との仕事を通じて、演技力を身につけていく。脇を固める出演者は親分である暗闇指令に長門裕之、直接サキを指示するエージェント、神に「戦国自衛隊」の中庸次。敵役にその後トレンディドラマで一山当てることとなる高橋ひとみ。齋藤由貴の人気は高まるのだが、ドラマそのものは盛り上がらないまま、サキは敵と共に爆発に巻き込まれて、生死不明となる。(つまり殉職したらしい)
その後を受けて「スケバン刑事U 少女鉄仮面伝説」が登場する。東映という会社はパート2を作るのが滅法上手い。さらにぶっ飛んだ設定と男らしいヒロイン。南野陽子のどこが男らしいんだと思われるかも知れないが、設定上は怪力、ランボーのように野戦に強い凄腕の心清き正義のスケバン(?)なのである。ヨーヨーをサイドスローで投げる時のスピードは時速253キロ。アメリカに渡れば野茂よりもサキにメジャーリーガーになれたことだろう。データ的には2代目と初代は同等の力を持つという設定なので齋藤由貴も怪力だったと言うことか。初代は孤独な戦いを強いられたのだが、2代目以降のスケバン刑事はチームで戦う。ビー玉のお京こと中村京子、おニャン子お嬢様こと矢島雪乃の二人がからんでトリオを組んで戦うというのは「仮面ライダーアギト」のルーツをここに見たって感じか。素晴らしい設定が生きているのがビー玉のお京である。アギトで言えばギルスにあたるといっていいのか、とにかくおいしい役所を攫ってしまう。
bQのポジションを十分に生かしたキャラクターというと「科学忍者隊ガッチャマン」におけるコンドルのジョーが真っ先に思い浮かぶ。「ルパン三世」ならば次元大介。「七人の侍」で言えば・・・久蔵(これには異存があるでしょうが、まぁ許してください)。特にコンドルのジョーの場合は最終回に主役を差し置いて華々しく散ってしまう。死んで花実を咲かせることが出来るのがbQのポジションである。主役は主役であるが故に思いっきった活躍が出来ない。ガッチャマンこと大鷲の健は毎度、責任と使命でがんじがらめで自由が利かない。軽やかに主役に反抗し、主役が越えられられない一線を越えることが出来る。それがbQである。「未来戦隊タイムレンジャー」のタイムファイヤーなんかは実に気持ちよさそうな死にっぷりだったりする。「仮面ライダーV3」のライダーマンもそんな感じ。ビー玉のお京はそういうポジションにいたのである。次元のように凄腕であり、ジョーのようにとんがっていた。そして最終回の前にきっちりと死んで見せた。言うことなしである。
特に番組後期のエンディングロールが名場面集になっており、カッコイイ。その中に名場面からの引用ではなく、新撮とおぼしきカットが毎回挿入されていた。それは三人が大江戸捜査網のように道一杯に並んで闊歩するカットだった。なんと、その映像こそ物語全体のクライマックスで使われる未来の映像だったというびっくりな仕掛けがあった。三人が死地に赴く最後の出陣シーンだったのである。東映おそるべし。ちなみに同様の仕掛けは中村吉衛門の鬼平犯科帳(これは松竹)第一部でも使われていた。冒頭のタイトルロールで馬を疾駆させる鬼平の姿が、第一部の最終回でテーマ曲(!)とともに使用され場面を盛り上げていました。
それまで今ひとつマイナーだった蟹江敬三がスケバン刑事でブレイクしたというのも忘れてはいけない。蟹江敬三は特捜最前線や影の軍団でも渋い演技を見せていたが、彼がメジャーになったのはスケバン刑事でエージェント、西脇を演じてからである。その後、鬼平犯科帳の粂八役でバイプレイヤーの役を不動のものとするが、彼の持ち味は昔から全く変わっていない。宮内洋が父親役、小野寺丈が同級生役、森塚敏が大首領の役というその筋の人が見たら感動すること間違いない布陣。ゲストではまんまターミネーター役として長江英和(V・マドンナ大戦争・・野沢尚のデビュー作)が登場し、スケバンたちが仮面ライダーV3のようなアクションを見せる。T定規を振りかざして襲ってくる学習塾の塾長(京大卒?)役で辰巳琢郎なんてのも出てました。
サキをさしおいてお京が主役の回が二回もある。一本はお京とニセお京の対決(偽物が登場するというのはヒーロー物の証です)。もう一本は自分にビー玉術を教えてくれた幼なじみの芦川誠(テレビ版の翔んだカップルということよりも、今では北野武映画の常連)との対決。どちらも力作である。特に前者はニセお京との「鏡の間での対決」というスリリングな激闘を見せてくれる。小道具の扱いが上手く、好エピソードだった。
「スケバン刑事U」は異様な盛り上がりを見せて、とうとう銀幕デビューを果たす。その都合上、ヒロインたちは奇跡の復活を果たしてしまうのだが、それはセーラームーンと同じく後日談的なものでしかないだろう。とはいえ映画版スケバン刑事はこれまた男らしい女たちの戦いが熱く描かれる感動的な作品になりました。ヨーヨー一つでヘリコプターを撃墜するという離れ業を見せてくれますが、うーん、どう見てもリモコンのヘリだなぁ。さらに秘密兵器として、十投もすると肩を壊して再起不能となると言う、重合金ヨーヨーの4倍の重さと16倍の破壊力を持つ新超密度合金製ヨーヨーが登場。
しかし、「ビー玉お京の腕、まだ衰えちゃいないぜ。」と颯爽とサキを助けに奔走するお京の姿は実に男らしくてしびれる。海外留学に出かけるために空港へ向かう雪乃の車を驟雨の中で待ち受けるお京の姿も、感動的。「サキに助けがいるんだ。力を貸してくれよ。」と涙を流して懇願するお京。サキとお京と雪乃の微妙な三角関係がこれまた面白い。そもそもサキはお京のことを「お京」と呼ぶが、雪乃のことは「雪乃さん」と呼ぶのである。お金持ちのお嬢様である雪乃に対してサキには遠慮がある。反面、お京に関しては舎弟に対する兄貴分の感覚がある。無垢なお嬢様である雪乃はサキを慕っていて、「サキさん」「お京さん」と呼ぶ。お京は一匹狼的筋に絡んでくるのだが、サキのよき片腕となる。雪乃を世間知らずの変人として理解しており、「サキ」「雪乃」と呼ぶ。実に面白い三角関係だった。お京を演じたのは相楽ハル子。その後、映画「バカヤロー!」と「必殺4」「マリアの胃袋」などに出演し、月曜ドラマランドの「悪魔くん」でのキュートな演技が印象に残っている。今でもテレビのCMでたまに見かけます。気合いを入れて主婦業をしているのだろうか。
その後、三代目スケバン刑事には浅香唯、大西結花、中村由真という風間三姉妹が登場する。「少女忍法帖伝奇」と副題が打たれて、三人組にホームドラマの要素と忍者の要素、及び根性物の要素がプラスされる。スケバン刑事となる人物は力も技も天賦の才を持っているのだが、(特に南野陽子は怪力・・)未熟な三代目はやたら特訓を行って次々と高度な技を習得していくという課程が物語前半の基本設定だった。三人娘のうち技は長女、怪力は次女がそれぞれ天賦だったようで、キャラ立ちは二作目よりも鮮やかではある。この三作目も好評だったようでゲストに大映ドラマの女王、伊藤かずえを招いた特番や「風間三姉妹の逆襲」なる劇場映画まで完成。悪役が板に付いている京本政樹を敵に回して、ヨーヨーでセスナ機を撃墜(!)してしまう。
この少女激闘路線は「少女コマンドーいずみ」「花のあすか組」へと続いて息絶える。尚、仙道敦子主演、中山美穂客演の「セーラー服反逆同盟」という偽物番組も登場。少女激闘物を盛り上げた。このジャンルは五十嵐いずみ、石田ひかり、和久井映美、小沢なつき等、アイドルの登竜門化していたのだから、隔世の感がある。とはいえ、この流れが絶えてしまったのは、ほぼ全部のアクションシーンが吹き替えだった点で本格アクションものとは認知されなかったことが原因だろう。つまりアイドルたちに所詮アクションは無理なのである。キャットファイト、キワモノ的な評価しか得られなかったのではないだろうか。その後、この手の作品群はお色気をプラスして深夜枠に移っていったようだ。とはいえ戦う少女の系譜は日本文化の特産品といってもよく、このジャンルは未来永劫、媒体を変えつつも不滅であるようです。事実、アニメやゲームでずーっと美少女たちは戦い続けていますから。
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