スタローンもシュワルツェネッガーも、もう旬の過ぎたアクション俳優です。懐旧的に二人の活躍を綴ってみます。どちらも肉体派のデクノボーとしてデビューして、そのデクノボーぶりを、すなわち欠点や未熟さを武器に成り上がった立身出世の人であります。若干、映画の公開年が前後していますが、ご容赦ください。
先手はスタローン、泣かず飛ばずの頃の「デスレース2000」のカルトぶりが伝説と化していますが、とにかく大根役者でした。若い頃の梅宮辰夫はあんな感じだったのではないのかしらん。「ロッキー」で売れた前後の「パラダイスアレイ」なんてのは画面がいつも煙草やスチームの煙でもやもやしていて雰囲気からして猥雑の極みでした。しかし、「ロッキー」という映画は偉い。あんなに単純な映画で、あんなに単純に自身のアメリカンドリームを実現してしまったのだから。後にあのファイトシーンの時間こそ観客の興奮できる時間の限界であると解釈し、それにならったのが角川春樹監督の「汚れた英雄」のレースシーンだったそうです。今度機会がありましたら是非計測してみましょう。
「ロッキー」は感動的なファィトでしたけれども、今思うとあの試合に賭けるロッキーの人生は妙にスケール感に乏しいものでした。とはいえチンピラボクサーの彼にとっては相応の夢だったのでしょう。ロッキーの夢が真に人生を感じさせたのは「ロッキー2」の方だったと思います。妊娠中の嫁さんを抱えての失明寸前のファイトでしたから。ダブルノックダウンのラストは盛り上げすぎでしたが、真の傑作は2だったと思います。3と4はヒーロー映画的な展開で、かろうじて2の世界に戻ってくる5は話としては悪くないですが、東映のトラック野郎の喧嘩シーンみたいなラストでした。
後手はシュワ。まんま肉体路線を突っ走り、「コナン・ザ・グレート」シリーズで注目を浴びますが、とんと人間離れした肉体と演技でした。そもそも米語が下手な彼をチャップリンの故事に倣って、サイレントの役者として売り出したマネージャーは偉いと思いました。彼はトークの必要のない、存在だけで価値のある肉体(と面相)の持ち主であったわけですが、つまりトーキー向きの役者ではなかったのです。
先手、スタローンは快調に飛ばします。現代ヒーローと言えば先ずは刑事アクション。「ナイトホークス」に続いて「コブラ」。この頃は共通の目標であるクリント・イーストウッド先輩がいました。忠実に後を追ったのがスタローン。刑事ものに続いて、イーストウッドのトラック野郎シリーズ「ダーティファイター」の向こうを張っての「オーバー・ザ・トップ」と独走状態。脱獄とサッカーの奇跡の合体映画、神様ペレのオーバーヘッドキックが炸裂する「勝利への脱出」。コンビ刑事ものでは「リーサルウェポン」に先駆けた「デッドフォール」がありました。
後手、シュワは「ターミネーター」で一気にスターダムに上り詰めるのですが、刑事アクション「ゴリラ」は名前からして「コブラ」の二番煎じ的邦題。日本の配給会社が当時のシュワをどう評価していたかが、如実に分かります。その後のコンビ刑事ものとしては「レッドブル」というのもありましたが、このシュワもサイレントでした。
先手、スタローンは刑事アクションよりも派手な火力が使える兵隊アクションへ。言わずと知れた「ランボー」シリーズへ突入。シュワは相変わらず、スタローンの轍を踏みつつも「コマンドー」から「プレデター」へ。スタローンが強いアメリカという幻影に酔っている間に、本来の自分の役者としてのSF設定に気が付いたシュワはここで一気に形勢を逆転します。そう、「プレデター」は兵隊アクションにエイリアンが絡んでくるSFスーパーアクションでした。所詮等身大のアクション映画にしか出ていなかったスタローンはここで大いに水を開けられます。つまり二人の映画人生の逆転は「プレデター」で起こったのです。
その後のシュワの「バトルランナー」「トータルリコール」、そして「ターミネーター2」。もう独壇場。ついにはコメディに手を出すなどとやりたい放題。決してシュワの芸域が広がったのではなく、日本の映画ファンのシュワへの妙な親近感。そもそもCMでシュワを笑い倒した日本の芸能界。「俺はお笑いでも通用する。」とシュワに変な自信をつけてしまったに違いません。アクションと笑いがミックスされた「キンダガーデン・コップ」や「ツインズ」は確かなターニングポイントだったかも知れません。「バットマン&ロビン Mr.フリーズの逆襲」に客演してトップタイトルを取ってしまったり、嬉々として悪役を演じてしまったりしたのは余裕の表れでしょう。
その後のスタローンは後手に回りシュワの後塵を被ることになり、コメディやSFに手を染め失敗。日本のCMでもせいぜいお歳暮のハムを届けるくらいで、新境地を見いだしているとは言い難い日々。ライブアクションに戻って「クリフハンガー」で一時再起の光が差しましたが、その後の活躍はB級止まりの印象を拭えない。「暗殺者」や「スペシャリスト」など、相手役に人気者を配しても、どうも彼自身が冴えないままでした。シュワも「ラストアクションヒーロー」で味噌をつけた後、「トュルーライズ」で世界一目立つスパイを演じたのを最後に、どうも低迷。「イレイザー」といい、「コラテラル・ダメージ」といい、小粒な印象。長かった二人の対決も直接対決がないまま、錆びたカードとなってしまっている感じがします。まるで昭和の馬場と猪木か、ガメラとゴジラですな。スタローンの場合は自分が選手ではなく、トレーナーの役を演ずるという「ドリヴン」が、新境地を開いていました。一線を早く退いて、脇を演じられるような演技巧者に二人ともなれ……ないでしよう。助演男優賞を争うとしたら、後二十年はかかるでしょう。
私の持論はスタローンの目指したヒーローが常に、喧嘩が強くて偏差値も所得も低い庶民、または精神に異常や障害を抱えている「スペシャリスト」であると言うことです。「ロッキー」や「オーバー・ザ・トップ」の主人公は前者で、「ランボー」や「コブラ」「クリフハンガー」は明らかに後者です。シュワは常にエリートでクールな人物を演じています。肉体(や面相)は異常なのですが、中身はクレバーな市民なのです。この辺りは戦略的にスタローンの逆を狙ったのか、それとも二人の資質の違いなのか。私には東映的なスタローンと東宝的なシュワって感じがするのですが、いかがなものでしょうか。とにかく二人は好対照であり続けました。この後の二人は政界進出を伺う正月映画俳優シュワと人知れずアクション俳優を全うする如月俳優のスタローンという具合に道が分かれていく気がします。ともあれ、実に分かりやすいライバルを演じてくれていた二人です。
追記 「T3」を経て、シュワはとうとう知事に当選。「ブレデダー」などで競演したベンチェラも大喜びでしょう。その一方で10月公開の「スパイキッズ」に出演し、お子様向けキャラを演じ続けるスタローン。二人の直接対決の日は果たしてくるのでしょうか。
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