80年代の映画小僧たちにとって、大林宣彦の存在は慕わしいものであった。大林宣彦がCM作家であったこともろくに知らないのに「HOUSE」という和製オカルト映画には妙に関心があったのである。映画を見たお客さんの一人がショックで亡くなったというショッキングなニュースも映画への期待を持続させていたし、主演が大場久美子と池上季実子というアイドル女優だったこともあってか人気も高く、見てみたいとずっと思っていた。実物を見たのはだいぶ後になってからだが、たいそう面白かった。最後の「愛のメッセージ」には恥ずかしいものを感じたが、和製ジェットローラーコースター映画といった、後半のパワフルな展開には堪能した。わざとやっているとしか思えない稚拙な合成や作り物然とした生首の乱舞など場末のお化け屋敷の雰囲気がぷんぷんと漂っていた。私はお化け屋敷を本当に怖がるタイプなのでドキドキしながら映画を見た記憶がある。後に大林映画と言えばアイドルの製造工場めいた印象を受けるのだが、それは大林映画が角川映画との蜜月を過ごした80年代に集約される。尤も、その後も大林映画からは若手の女優が多々巣立っている。しかし「愛のメッセージ」というなんとも恥ずかしい主題をずうっと送り続ける大林映画は筋が通っていて立派ではある。
「時をかける少女」や「ねらわれた学園」などの手作りの特撮は切り貼りにしか見えないような稚拙な合成が満載で、リリカルな、乙女チックな、NHK少年ドラマシリーズのような、暖かい作品群だった。でも何より当時の私を魅了した作品はいちばん特撮度の低いファンタジーである「転校生」だった。「これはもうけものの映画だよ」と友達(ホラー映画好きのチーク松野クン)に勧められて見た映画で、今では三谷幸喜監督夫人となっている小林聡美が主演したもの。でも、本当の主演者は尾美としのりだろうけど。何はなくとも8ミリ少年には泣けるラストだった。「転校生」のラストシーンによって、当時の映画小僧、特に8ミリ少年は大林映画に絶大なエールを送っていたような気がする。熱狂的なファンを獲得した「時をかける少女」などは、登場するアイドルの稚拙な演技と舞台が学園であるということで、多くの8ミリによる模倣映画を産んだことだと思う。私もSF学園物は何作も書いたし。
8ミリ映画らしさは「HOUSE」や「ねらわれた学園」に溢れている。特にそれらにおける合成映像の遊びや駒落としの遊びなどが身近に感じられたものだった。特に「ねらわれた学園」に出演していた手塚真監督が当時作っていた8ミリ映画「MOMENT」と異様にそっくりな雰囲気が「ねらわれた学園」には漂っていた。そのスラップスティックな感覚では当時の手塚真監督の方が優れている気がした。手塚監督がコンスタントに話題作を手がけないことは残念だと思っている。手塚治虫の追悼番組にコメントを出すのは肉親としての勤めだとは思うが、本業でもっと目立つ活躍をして欲しい。
大林監督はコンスタントに話題作を撮り続けている。以前のような稚拙な合成は影を潜めて、重く湿ったような画面づくりが多い。「ふたり」にはハイビジョン合成の部分(マラソンの場面)があって、そこだけが全体の中から浮いてしまっていたような気がする。ビデオ版ではその後、修正してしまったかも知れないが、映像の冒険は冒険だけに後々、「なんだこりゃ」と言われてしまっても仕方がない。冒険といえば、アニメの「ゴルゴ13」は公開(1983年)当時、世界初のCG映画、コンピックス(?)として宣伝していたが、当時でさえ猛烈に情けない映像だった。なにしろ、いきなり映画館のスクリーンがテレビゲームの画面に切り替わってしまったのだから。とはいえ、チャレンジスピリットを今に伝えているということでは一見の価値があるかも知れない。(嘘。CGとしては見るべき価値はありません。白木葉子のファンの人だったら、別な意味で見てもよい。紛い物CG映画では、デジタルのようなアナログ映画「トロン」なんてのもありましたね、昔。)
結局、初期には「映像の魔術師」「日本のスピルバーグ」と言われた大林監督だが、今は全くそんな印象はない。今や饒舌派、いや、やたら叙情派の監督になってしまっている。年齢相応に大林映画もすっかり落ち着いてしまったのだろう。寂しい反面、昔のリリカルな叙情性が強まっていて、これもいい感じである。「あした」なんてのはその極北を行くのではないかと思いました。「ここまで泣かすか。」と言った泣き物の要素のオンパレード。特撮の見所は幽霊船の登場シーンと言いたいが、本物の船を沈めたり、浮かせたりというそのまんまの撮影。「ふたり」と違って浮いている画像がない、ヘビーでウエットな映画になっていました。最大の特撮は原田知世の存在そのものではないかしらん。切なくて泣ける映画なのだが、しかし不思議なことに悲しい映画ではない。見終わった後なんともさわやかな気分になれる。朝焼けの瀬戸内海を見る心境ですね。
「青春デンデケデケデケ」も先日やっとビデオで鑑賞した。これまたストレートな等身大の青春映画になっていた。これは近年にない良質な青春映画でした。中高生は必見でしょう。日本映画もまんざら悪くはないなぁとつくづく実感しました。町の公民館主催の映画会かなんかで親父ロックバンドとジョイントの企画でもすればよい。しょぼくれた親父が、引きこもりの息子に封印していたギターを見せて、「父ちゃんのロック魂を見せてやる!」なんて展開があるとドラマみたいで嬉しい。
大林映画はひたすらノスタルジィ路線を快走し続けている。監督は監督自身が亡くなるまで、この調子で、映らないはずの「ヒトノオモイ」をフィルムに焼き続けるのだろうと思う。でもあっさりとハイビジョン撮影にすべて切り替えてしまいかねない。それもまた大林監督らしい。
以前テレビで見た「三毛猫ホームズの名推理」の劇場用ディレクターズカット版を見た。葉月里緒菜が絶品の存在感を正しく表現している。この人は「写楽」以後、道を誤ってしまったが、この作品におけるリリカルな役所は天下一品である。主演の陣内も若々しく片山刑事を演じている。このような作品を偶に生み出す土曜ワイド劇場は老舗だけのことはあって侮れない。ちなみにこの作品には「A MOVIE」の冠が付けてあった。なんとなく嬉しい。
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