日本映画がアクション映画として生き残る最大の可能性は当然の事ながら時代劇でです。ご存じのようにテレビや映画でやっている時代劇は全くの嘘八百なのですが、それはそれで大嘘を楽しんでいるのが心ある観客であり、視聴者であるのです。
日本刀は何人もバッタとバッタと人を切り倒すことは出来ないとか。斬る音にしても、鍔鳴りの音にしても、あんな音はしないとか。江戸に瓦屋根の長屋なんぞ存在しないとか。そんなことを突っ込むのは野暮ってもんです。ジョン・ウー監督お得意の乱撃アクションだって、ずいぶん大嘘なわけですから。日本の時代劇の背景は全てフィクションなのに、西洋では騎士劇のロケが出来てしまうわけで、その辺も「日本」を世界に誤解させている所以なんだと思う。つまり、前時代的な風景がヨーロッパでは残っているところがあるが、日本では全くそれがない。ヨーロッパの田舎では中世の生活様式を伝統的に伝えるような町並みが厳然と残って、しかも機能していたりする。西洋の人は自分の国の田舎の風景を思い出して、現在でも日本人が日光江戸村のような場所で生活していると思っているかもしれない。ヨーロッパの教科書に日本の紹介があるとすれば一体何時代の日本が描かれているのか、興味があるところだ。
快刀乱麻、一刀両断。この四文字熟語に込めた明快な処置の仕方に対する憧れが、「煮えきれない、曖昧な日本人」が時代劇に賭けた夢なのではないだろうか。とかく世の中は不透明だ。その不透明さを一刀両断するなんて不可能だ。それを一刀両断してしまう世界が時代劇というフィクションの世界であり、「侍」という爽快なスーパーヒーローなのである。史実はこの際どうでもいいのであって、時代劇もスーパー戦隊シリーズもコスプレじゃん、と誰かが指摘していたが、まさしくその通りであると思います。東映のヒーロー物は結局はチャンバラになってしまうわけだし、ガンダムだってチャンバラやってしまうわけですから。
以前、東京12チャンネルで目黒裕樹の「鞍馬天狗」なんていう30分ものを平成になってもやっていましたが、まさしくあれは特撮ヒーローのノリで作られていたと言うべきでしょう。元祖東映ヒーローものである、「怪傑黒頭巾」や「赤胴鈴之助」などの子供向け剣豪ものや、忍者ものも基本設定は同じものだ。かつては日本の平和(往々にして幕府の安寧)を守るためが、今の戦隊ものでは地球の平和を守るためにすり替えられているだけです。地球の平和を異星人から守っても中東の和平には貢献しないのがスーパーヒーローというものです。しかし、クラーク・ケントも戦時中は日本人をやっつけていたような気がするのだが(ワンダーウーマンだったっけなぁ。ちょっとあやふや)桃太郎だって、「空の神兵」だったのだから、お互い様。でも、「スーパーマン4 最強の敵」は私が一番好きなスーパーマン映画ですが、そこでは世界の核兵器廃絶に貢献してしまったから、スーパーマンのことは悪くは言えません。とはいえ、あれは核兵器よりも怖いスーパーマンが力で全世界を征服した瞬間だったのかも知れません。人類同士の争いにスーパーヒーローが荷担してしまってはいけません。平成ウルトラセブンなんてのはお陰でウルトラ兄弟から破門されてしまったみたいなのに。でも、まぁ、帰る星のないスーパーマンには破門にしてくれる仲間は元々いないか。
もやもやさせない、一刀両断の活躍を見せてくれる映画と言えば何か。血なまぐさくてもいいのなら、勝プロの作っていた時代劇などがよい。「座頭市」や「子連れ狼」は実に爽快だ。劇画調でテンポ良く元気がある映画である。黒澤映画では「椿三十郎」あたりだが、黒澤の主人公たちはコスモポリタンだったりするので、日本人特有の情念の世界には似合わない。東映と東宝のカラーの違いもあるのかも知れない。時代劇は日本の古典芸能的でありながら、常に新しい可能性のあるジャンルである。要するに一種のSFである。様式美だけで評価してはいけないのであって、廃れさせるには惜しい。勝新太郎が監督した最後の「座頭市」は、相変わらず重戦車のような強さを市が発揮して痛快だった。最もラストシーンのロングショットに監督の作家性が出てしまって、困ってしまったが。
私は一刀両断の緊迫感のある殺陣に対して、新しいアクションの可能性を感じる。ジャッキー・チェンの京劇的なカンフーよりもブルース・リーの一撃必殺的なカンフーに未だに心酔している人も多いと思うのである。一刀両断は期待されているのだ。昨今のハリウッドを席巻するスチーブン・セガールは正にその路線ではないか。日本の時代劇を支える人たちにも頑張り続けて欲しい。「バガボンド」のヒットで時代劇は注目に値するジャンルであることは万人が認めるところである。時代劇はある意味で職人気質で製作されるものだと思うので、その灯を消してほしくない。「雨あがる」みたいな小品でも味のある九十分くらいの時代劇をコンスタントに作り続けて欲しい。
さて、一刀両断にふさわしい現役の剣豪役者は誰か。役所広司くらいしか思い浮かばない。映画とテレビ、両方で活躍中だ。彼以外では誰だろう。渡辺謙はテレビ時代劇では活躍しているが、殺陣に迫力があるような気がしない。高橋英樹は元が日活スターだから器用にバラエティ慣れしているが、殺戮大魔王こと「桃太郎侍」の復活を期待したいところだ。滝田栄も真剣を振りなれているせいか、必殺シリーズなどで豪剣のイメージはあるものの、今ひとつ華がないので主役向きではない。新・旗本退屈男、北大路欣也は還暦前後だろうから、里見浩太朗や杉良太郎同様に、年齢的にもうアクションはつらいだろう。踊りになってしまっているような殺陣は見たくはない。
今後はジャニーズの連中に京劇を学ばせて、殺陣の特訓を積み、ニンジャ軍団でも結成したらどうだろう。アジアの小学生や中学生ばかりをファンの対象としないで、世界に目を向ければ自ずと成果があがるのではないだろうか。単なる歌や踊りで世界に進出できるほどハリウッドやラスベガスは甘くはないだろう。ジャッキーがカンフーで。ユンファが二丁拳銃でハリウッドに進出したように。藤岡弘もかつて日本刀を片手にハリウッドへ行って、向こうのユニオンに加盟したではないか。その後も藤岡弘は地球のために世界を飛び回っている(仮面ライダーSPIRITS)ようだし、頭が下がる。
ちなみに役所広司、北大路欣也、藤岡弘と言えば宮本武蔵。東山紀之は沖田総司、木村拓哉と言えば・・・織田信長か。堀部安兵衛も好演していましたが、あれは安兵衛というよりキムタクだった。殺陣にもっと迫力が欲しい。今後に期待しましょう。若手と言っていい、村上宏明や阿部寛などは時代劇に活路を見いだしているようで、次第に殺陣が上手になりました。宮本武蔵を演じた上川隆也はちょっとワイルドさ不足。若手はもっと頑張りましょう。武蔵には反町隆史なんてのはどうでしょう。でも武蔵は巌流島をやらないとおさまらないから、話が決まってしまうので、柳生十兵衛なんてのはどうかな。彼のアクションに関してはさっぱりわからないので、雰囲気だけで期待。十兵衛と言えば松方弘樹は親爺の跡目を継ぐのを諦めたのか、最近新作がないので寂しいが、千葉真一共々十兵衛は引退か。その後の十兵衛役者と言えば若林豪、西城秀樹、渡辺裕之、小沢仁志。次は佐藤浩一か。根っからのアクション俳優が千葉真一以外にまるでいないではないか。これでは時代劇が廃れるはずである。
根がアクション俳優の真田広之は「陰陽師」で悪役として時代劇にカンバックした。戦え、デューク真田。彼をトレンディドラマで飼い殺しにするのは日本映画界の損失だ。その「陰陽師」だが、「必殺4」を彷彿とさせる活躍ぶりで素晴らしかった。特に主役の野村萬斎の狂言的な殺陣というか、独特の動きと、ジャック生え抜き、ど真ん中の真田の殺陣がまるで噛み合わないのだが、それが非常に面白い。正に異種格闘技戦的なノリである。二人の対決シーンは見物である。特に野村萬斎の晴明ぶりは際だって面白い。一本では惜しいので、続編を期待したい・・・と、言いたいが、今の真田以上に動けて、説得力のある敵役俳優がいるかどうか疑問である。京本政樹や陣内孝則では動けないだろうし、布袋寅泰や船木政勝では演技に不安が残る。・・・ともかく、「陰陽師」はよかった。と思っていたら、「陰陽師2」が制作されるとか。怪獣以外の日本特撮映画の活路もやはり時代劇しかないですなぁ。
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