香港映画

 「少林サッカー」を見た。「巨人の星」などで描かれていた日本のアニメ映像を実写でやってしまうとこうなるのだろう。とにかく、面白かった。「超ド級のサッカーエンターテイメント日本上陸」というフレーズは伊達ではない。喜劇王チャウシンチー率いる「少林隊」の痛快カンフーサッカーアクションコメディである。映画は常にアイディア勝負。コロンブスの卵だとつくづく思い知らされる映画だった。香港映画のギャグシーンはアドリブ的な悪のりが炸裂し、ついていけなかったりすることもあるのだが、この作品は実にバランスがよい。チャウシンチーものは他には「008皇帝ミッション」しか見ていないのだが雲泥の差がある。「少林寺サッカー」は洗練されたアイディアとスタッフキャストのノリで奇跡的な傑作が誕生したといってよい。香港のアカデミー賞がどれだけ権威があるものなのかはしらないが、少なくとも日本アカデミー賞よりは立派だろう。この作品に作品賞を授与したと言うことだけでも評価できる。映画館で予告編を見た時は大丈夫かなぁ・・・という印象だったが、一見不如百聞。ロード・オブ・ザ・リングやハリー・ポッターをしのぐ感動ものの痛快感を味わった。殺戮系ガンアクションも痛快ではあるが、殺伐とした印象が残るのは否めない。この映画の場合は死者は出ませんし、一応、スポーツですから。これぞ正しいCGの使い方であって、この作品のために長年ワイヤーワークを培ってきたのだよね、香港映画界は。

 香港映画といえば何はなくとも一連のブルース・リー映画である。私としては「死亡遊戯」のストーリー展開は嫌いじゃなかったので、吹き替えのシーンをすべてCGで直してくれれば、それもOKなんだけども、どうだろう。なんといっても、あのトラックスーツ姿の勇姿が忘れられません。あの時の相手役のやたら背が高い黒人はただの見かけ倒しだったようですが、とにかくブルース・リーの動いている姿は実に美しい。どれか一つといわれたら、「ドラゴンへの道」かな。華麗なダブルヌンチャク捌きと「デルタフォース」チャック・ノリス(白人)を徹底的に打ちのめす、圧倒的な強さが感じられて痛快。バンタムがコロシアムで決闘をやりたがるのはこれの影響かな。

 次のスターは当然ながら、ジャッキー・チェンである。彼も初期はただのカンフー役者だった。「ドラゴン特攻隊」などは日本のファンには見せられないような怪作。しかし、「プロジェクトA」あたりからぐんぐん垢抜けてきて、私としては「サンダーアーム」あたりが一番脂がのっていたような気がします。香港版「インディ・ジョーンズ」みたいな話なんだけども、カンフーに限らず全編盛りだくさんのアクションの洪水。その後、大きなはずれもなくハリウッドにまで進出して頑張っている。あんなにすごい役者であり監督でもあるのだから、あのにこにこ顔の下はきっと恐い人に違いない。彼がいつ一線を引くのか、その後はフロント入りしてサモハンみたいになってしまうのか、興味は尽きない。

 ジェット・リーと改名して、ハリウッドに挑戦中でも、どうも不遇なイメージがつきまとうのがリー・リンチェイ。「少林寺」といえばこの人であり、「ワンス・ア・ポンス・イン・チャイナ」での抜群の格闘ダンスセンスはジャッキーに勝るとも劣らない。一度に九本もの矢を放ち、しかもすべてを的中させるという荒技が嬉しい「レジェンド・オブ・フラッシュ・ファイター」。でも、どうしても貧乏くじを引き通しだったのが、「リーサルウェポン4」での扱い。同じ東洋人としては噴飯ものだった。あの童顔がいけないのかなぁ。とはいえ年齢による深みを増しての「HERO−英雄」はかなりよかった。ワイヤーアクションとCGをおさえるともっとよかったかもしれない。武侠物の飛翔シーンはユンファの「グリーン・デステニィー」もそうだが、感覚的に今ひとつ乗れない。

 別にハリウッドなんざ目指さなくてもいいのである。チョウ・ユンファの「リプレイストメント・キラー」だっけ、タイトルも覚えづらいが、中身もくだらないの一点張り。「狼/男たちの挽歌・最終章」の頃の気高さを取り戻して欲しい。そう、なんといっても香港映画発展の基礎を築いたのがブルースであり、ジャッキーならば、中興の祖はユンファであり、「男たちの挽歌」シリーズである。いわゆる香港ノワールといわれた一連の黒社会ものだ。日本のニューやくざ映画のスタイリッシュさの中にかつての任侠映画の魂を吹き込んで新生された。清く正しいやくざ映画である。都合、3までシリーズとしてあるが、1と2を見ればまぁ後はよいでしょう。テーマ曲がすこぶるかっこよい。2の殴り込みに向かうシーンは最高の高揚感を与えてくれます。挽歌以外でのユンファものに「男たちのバッカ野郎」という珍品があるが、珍品すぎて勧められない。「フルコンタクト」「フルブラッド」などとタイトルも中身も大して違いがない作品群もあるが、どれも同じレベルに熱い激作である。ユンファ自身はいつまでも挽歌じゃないだろってとこだろう。とにかくなんでも演じられてしまう人のようで、その後も「アンナと王様」「グリーン・デステニィー」と洋の東西を問わずに活躍中である。

 007を相手に一歩も引けを取らなかったミシェール・ヨー(キング)。代表作は「プロジェクトS」か。「ポリスストーリー3」なんかにも出ていたが、香港版ワイルド7こと「ファントム・セブン」にも出ていた。とにかく、あれは……ワイルド7…だったよなぁ・・。でも、どうせなら最後までワイルド7をやり通して欲しかった。ミシェールとユンファの「グリーン・デステニー」は正しい時代劇。二人の円熟した魅力が堪能できる。

 「少林サッカー」のヴッキィー・チャオがもっと見たくなって「クローサー」を見た。主演はスー・チーかと思ったら、カレン・モクを交えての3人が主役のビューティフルなアクション映画だった。ドンパチからカーチェイス、カンフーから剣劇までありとあらゆるアクションの見せ場がつるべ打ち。スーとカレンの立ち回りも日本の美少女アクションとは雲泥の差。ヴッキィーの美しさと映画としての潔さ。この映画の最大の見せ場が倉田保昭との決闘というのも素晴らしい。とはいえ邦題がちと芸がない。原題の「夕陽天使」も意味不明だが、英題の「so close」の方が内容にあっている。「チャーリーズ・エンジェル」や「トューム・レイダー」の数倍、志がある。アイディア、CG、ワイヤーアクション、いずれも切れがあり、「マトリックス」や「リベリオン」等のゴス系よりも健全である。女優の華がある。ヴッキィーとカレンの別れのシーンも「男たちの挽歌」ではああはいかない。

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