美しき建て前に殉じたい

 

 真実一郎「シュシュトリアン、おまえたちの本音も聞かせてもらおうか。」

       真実一郎(大島宇三郎)がホンネ器のスイッチを入れる。

       雪子(田中規子)は回転してその電波を逃れる。

       月子(石橋桂)と花子(広瀬仁美)が電波を浴びてしまう。

    花子「私、この人と戦いたくない。シュシュトリアンやめたい。」

    月子「私たち愛と正義のためにいろんな悪者たちと戦ってきたわ。

                 でも、それが一体なんになったのかしら。」

    花子「テレビの時代劇や刑事物で何十年も悪人を退治しているけど、

                 いくら退治しても悪人は一向に減らないわ。」

    月子「日本はよほど悪人が多い国なのね。」

    花子「第一、いくら悪人と戦っても、一銭になるわけでもなし、怪我をしても危険手当もなし。」

    月子「生命保険もなし。やめた、やめた、やめた。」

    花子「降りた、降りた、降りた。」

       月子と花子はやる気をなくして座り込んでしまう。 

    雪子「なんて情けない本音を言うのよ。」

 真実一郎「ははは、雪子。おまえの本音も聞かせてもらうぞ。」

       ホンネ器の前に立ちはだかり電波を浴びる雪子。

       凛とした表情を崩さない。

 雪子「私は愛と正義、

心優しき弱き者を守るために身を捨てます。」

 真実一郎「おかしい。どうかしたのかな。ええい、いい加減な建て前を。

    雪子「いいえ、私は本音を言っています。美しき建て前に殉じたいというのが私の本音です。」

 真実一郎「おまえは嘘つきだ。愛だの正義だのというものは嘘だ

    雪子「そうです。嘘です。でも、人は愛と正義という夢がなければ心が渇くのです。

                本音だけの現実には耐えられないのです。人間には夢という名の美しい嘘が必要なんです。」

月子・花子「夢……。」

        雪子「月子、花子、立ちなさい。愛と正義という

夢を守るために戦いましょう。

 

 東映不思議少女シリーズの最終シリーズである「有言実行三姉妹シュシュトリアン」(1993)の第三十七話「怪人・真実一郎」の回である。怪人・真実一郎は人間の本音をさらけだす機械、「ホンネ器」を使って人々の本音をえぐり出す。醜い本音を人間たちがあからさまに言い始めたので世間はシッチャカメッチャカ。クライマックスはお約束の悪者退治だが、そこで交わされるのが前述の会話なのである。十年後の仮面ライダーたちが自分にとっての正義とはなんぞやともがいていたのとは雲泥の差である。こんなに潔い発言は子供番組、それも過去の子供番組でもないとお目にかかれないのだろうか。監督は坂本太郎。脚本は大原清秀。音楽は本間勇輔。

 妙に覚えている感激の作品と言えば「仮面ライダーBLACK RX」(1988)の第7話「SOS!友情の輪」である。この作品は仮面ライダーBLACKがマイナーチェンジして性格がメジャーになった作品。ライダーの数え方が混乱し、もはや正確に数えるのが不能になっている平成ライダーの予兆を示す作品だった。この回は主人公(南光太郎)の幼なじみ(モリタヨウスケ)が敵の情報を盗んで逃亡中という話なのである。子供の頃、崖から落ちそうになった光太郎を、「俺がお前を助けないで誰が助けるんだ。」と叫びながら必死に助けてくれたのがヨウスケだった。倉庫のようなところで宙吊りにされているヨウスケに向かって、駆けつけた光太郎が「俺がお前を助けないで誰が助けるんだ。」と叫ぶシーンは感動的だった。すれっからしの私はてっきりヨウスケは悪側についていて光太郎を罠にはめているのだろうと思っていたのに、光太郎と年少視聴者の思いが最後まで裏切られることはなかった。なんて爽やかで単純なストーリーなのだろう。監督は辻理、脚本は江連卓。

 「有言実行三姉妹シュシュトリアン」(東映作品)は当時の円谷プロの社長に大いに気に入られていたらしく、社長が本人の役で出演する第四十話「ウルトラマンに逢いたい」という奇跡的な作品が存在する。お話は「ウルトラマン」の第十五話「恐怖の宇宙線」らしきものを照射する「命の星」が円谷プロの怪獣倉庫(着ぐるみ保管庫)に落ちる(アンパンマンか?)ところから始まる。バルタン星人、ガラモン、エレキング、ダダ、ゴモラ、ブースカ(声・高橋和枝・・つまり、本物)と、着ぐるみたちが命を吹き込まれて、街中で騒ぎを起こす。その頃、地球に戻っていたウルトラマンはハヤタ(黒部進・・つまり、本物)の姿をして円谷プロで着ぐるみの修理をしつつ、怪獣たちの供養をしていた。シュシュトリアンに追いつめられたバルタン星人は巨大化する。シュシュトリアンは悲しいかな等身大ヒーロー(ヒロイン)なので、巨大バルタンにはなすすべもない。月子が遠くの空を見上げてつぶやく。「助けて…ウルトラマン。」ハヤタはその危機を察知し、円谷プロを飛び出す。

 「これを使ったら、もう地球にはいられない。しかし。」

           

 一瞬のためらいの後、ハヤタはベータカプセルを点火する。真っ赤な閃光の中でウルトラマンが、東映作品の中に初めて燦然と登場する。空前絶後の感動が炸裂する。なんとも特撮野郎たちに愛されたシュシュトリアン。円谷一夫はきっと石橋桂(月子)を愛していたのだろう。ラストにはウルトラの星が輝き、「ウルトラマンティガ」の第四十九話「ウルトラの星」に匹敵する感動と愛がある。監督は佐伯孚治。脚本は武上純希。

 エンドクレジットのドリームランドでロケしたらしい三姉妹のウェディングドレス姿。矢野顕子の名曲「あなたには言えない」が優しく流れ、家族の幻想が紡がれる。そもそもこの三姉妹がスーパーヒロインになったのは両親の離婚をとめるため(!)だったのである。幸せな家族という幻想が回るメリーゴーランド。三姉妹が両親と一つ屋根の下で睦まじく暮らした少女の時代。彼女たち(女優自身)の生まれてから現在までの写真が走馬燈のように揺れる。娘よかくあれかし。見ているだけで涙が溢れてくるような切なさがある。

 

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